Bar Branding Project
Bar Pálinka
2019/12 31.45㎡(8.5x3.7x2.5m) Photography : ooooo
ハンガリーの果物の蒸留酒である「Pálinka(パーリンカ)」を専門に扱うお店として、「Bar Pálinka」と名付け始動したプロジェクト。 パーリンカは100%果物で蒸留された後、ステンレスタンクで熟成される。その過程で、香りとアルコール以外の不純物が取り除かれ、最終的に透明な液体となる。この香りの「抽出」過程に着目し、「抽出」を店舗デザインにおける1つの基軸とした。 例えば、現在一般的になっているグラフィックが印刷された「壁紙」は、単純に安価に大面積を装飾するものとして使われる。これはモダニズム以降の「装飾の犯罪性」に反するが、一方で壁紙が広く普及していることは、空間に対する「一定の装飾性」の必要性を逆説的に証明している。壁紙はもともと、壁面レリーフや彫刻などの立体的な装飾物(同時に権威やアイコン的意味合いがあった)が安価に大量に生産可能になりその記号表現が「抽出」されたものだ。 この観点で、壁紙より新しく、空間の「一定の装飾性」を担保する空間要素を考えたとき、壁紙をもう一度「抽出」し、純粋なグラフィックとして空間に浮遊させてみてはどうかと考えた。この新しい空間要素を「フロート」と名付けた。 Pálinkaは、繰り返し蒸留をすることで果実から香りをより凝縮させて「抽出」して作る。同じように、壁に施されたPálinkaに用いられる果実の数々のグラフィックが「抽出」され空中に「フロート」となって浮遊することで、それが光をうけて周囲にグラフィックの影を落とす。またそのフロートは人と人の目線を緩和し、ソフトなゾーニングとして機能する。「装飾性」と「機能性」をそなえた新しい空間要素だ。 壁面に施された果実のグラフィックと空間を浮遊する「フロート」は、訪れた人々にまるでパーリンカの果実に包み込まれたような体験を与える。空間の中央に位置する鏡は、広くはない空間を視覚的に広げる機能だけではなく、このグラフィックに包まれているという体験を助長する役割も同時に果たしている。 造作や家具についても「抽出」をキーワードにデザインをしている。例えばカウンターのアウトラインが抽出されてハイスツールの造形になるようにデザインすることで、「まず空間があり、そこに様々な要素を加えていく」主従的な手法のデザインではなく、「抽出された要素が空間の新しい魅力を引き出すように作用している」。 上述のように、様々な要素が関係しあいながら同時的に成立している空間は、グラフィック・プロダクト・空間デザイナーが協働でデザインを行うからこそ実現できるデザインとなっている。